札幌地方裁判所 平成2年(わ)353号 判決 1990年8月29日
本籍
札幌市北区北二〇条西七丁目二〇番地
住居
同市中央区宮の森一条一二丁目一番二八号
団体役員
熊野雄幸
昭和五年三月二日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官村井三郎、同江幡豊秋各出席、弁護人水原清之、同折居辰治郎各出頭のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金二五〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和五二年ころから札幌市中央区南二条西五丁目所在の一団の土地の管理を委託され、借地人からの賃料の集金等を行つていた者であるが、昭和六一年三月ころ、地崎合同販売株式会社(代表取締役地崎昭七)から右一団の土地等の売買の仲介を依頼され、この機に乗じて自己の所得税を免れようと企て、右会社等から受領した右土地などの売買の仲介による手数料収入などを除外して割引債券等を購入するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和六一年分の実際総所得金額が一億五七〇八万一一四八円あつたのにかかわらず、昭和六二年三月一六日、同区北七条西二五丁目所在の所轄札幌西税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額が二三八万二五九五円で、これに対する所得税額が一五万四二〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同日を徒過させ、もつて、不正の行為により同年分の正規の所得税額一億〇六一八万五四〇〇円と右申告税額との差額一億〇六〇三万一二〇〇円を免れた。
(証拠の標目)
一 被告人の
(1) 当公判廷における供述
(2) 検察官に対する各供述調書
一 被告人作成の昭和六一年分の所得税の修正申告書謄本
一 地崎昭七、前川和子及び岡野恵美子の検察官に対する各供述調書
一 大谷盛夫及び小口勝の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の収入金額調査書、不動産所得調査書、支払手数料調査書、雑費調査書、利子所得調査書、譲渡所得調査書、預金調査書及び有価証券調査書
一 検察事務官作成の電話聴取書
一 七十七銀行札幌支店作成の各領収済通知書謄本
一 大蔵事務官作成の領置てん末書
一 押収してある昭和五七年~昭和六一年分所得税の確定申告書綴一綴(平成二年押第一一九号の一)及び青色申告者書類つづり(押収物総目録上の品目表示は所得税青色申告決算書綴)一綴(同押号の二)
(法令の適用)
被告人の判示所為は所得税法二三八条一項に該当するところ、所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、なお情状により同条二項を適用し、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金二五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の事情)
本件は、被告人が昭和六一年分の所得につき、集金手数料や貸金手数料及び土地売買の仲介による手数料収入などを除外した確定申告をなし、一億〇六〇三万円余の所得税を免れたという事案であるところ、所得申告率は約一・五パーセントと極めて低く、そのほ脱税額は右のとおり高額で、ほ脱率は九九・八五パーセントと極めて高いこと、所得秘匿の方法は、仲介手数料収入の全額を除外するため、土地売買に関して売買当事者双方から多額の仲介手数料を得ていながら、その仲介手数料を裏金として処理したり、また、被告人自ら地権者に対し仲介手数料を保証金として処理するように虚偽の申告を依頼するなど犯行の手口も大胆、悪質であること、犯行の動機も、自己の健康について憂慮し、家族のために資産を残そうと考えたことにあつたとはいえ、短絡的に脱税という手段を選択した利己的なもので、格別同情できないこと等に徴すると、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
しかし、他方、被告人は、昭和六一年分の所得税の修正申告をしたうえ、ほ脱した所得税の本税、重加算税及び延滞税を既に全額納付していること、本件捜査、公判を通じ一貫して犯行を認め改悛の情を示していること、これまで前科前歴が一切ないこと、その他被告人のこれまでの経歴など被告人に有利な事情も認められるので、これらを総合考慮して、前示のとおり刑を量定し、懲役刑についてはその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した次第である。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤學 裁判官 河合健司 裁判官 近藤昌昭)